一時期下火になっていたM&Aですが、最近また盛んに行われるようになってきました。以前は上場企業のような大手企業を対象としたM&Aが多かったのですが、ここ数年、中小企業などでも行われるようになってきました。なかには個人経営の事業を対象としたM&Aを手がける事業者も出てくるほど、M&Aの裾野が広がってきています。
 M&A業界全体を調査したデータがないので正確な数字はわかりませんが、推計で年間2500件ほどの成約数と、年間取引総額15兆円といったデータを公表している大手M&A事業者もいます。
 いずれにしても、相当な数のM&A取引案件があるということです。しかし、その成約率は、そして最終的な成功率はどうかというと、これが思ったほど高くはないようです。特に最終的な成功率については、M&A先進国である米国やEU諸国でも5割程度、我が国では、3割に満たないのではないかと言われています。我が国でM&Aの成功率の低い原因としては、以下にあげるさまざまな原因が、影響しているようです。

①M&A戦略上の明確な目的がないこと
②M&A後の事業統合が行われないこと
③デューデリジェンス(DD)をしっかり実施しないこと
④M&A事業者選びに失敗してしまうこと
⑤情緒や感情に流されてしまうこと

これらの原因について詳しく見ていきましょう。

原因①:M&A戦略上の明確な目的がない

 M&Aが盛んになると、M&Aという言葉が一人歩きしてしまい、経営者の間にM&Aを行えばうまくいく、といった妄信的な考えが広がってきているように思われます。つまり、M&Aを行うこと自体が目的となってしまっているのです。本来M&Aは、経営上の目的を実現するための「手段」であって、経営上の「目的」そのものではありません。ところが、M&Aそのものが目的となってしまった結果、M&Aプロセスをいかに効果的に行っていくか、その点に勢力を集中してしまうため、M&Aプロセスが終了してしまうと、次に何をやってよいのかわからなくなってしまうのです。
 M&Aは、そのプロセスの終了からが本格的なスタートなのです。買手側企業の経営目的であるシナジー(相乗)効果と企業価値の増加、売手側企業の事業の継続と発展、従業員の雇用の保証といった双方の目的が達成され「win-win」の関係になってこそ、M&Aは成功したと言えるのです。

原因②:M&A後の事業統合が行われない

 原因①で述べたように、成功率の低い最大の原因は、M&Aが手段ではなく経営上の目的そのものになってしまう結果、M&A後、何ら有効な手を打つことができなくなることです。
 M&Aの究極の目的は、事業統合によるシナジー効果の発現と、それによる企業の継続的な価値の増加にあります。そのためM&Aを成功させるには、M&Aプロセスと事業統合のプロセスは「手段と目的」の関係であり、両者を一体的なものとして捉えた上で、その目的であるシナジー効果、企業価値といったものの実現を図ることが重要なのです。

原因③:デューデリジェンス(DD)をしっかり実施しない

 デューデリジェンスは、売買対象である売手側企業をそのビジネス(事業)、財務・税務、法務、その他のさまざまな面から調査するもので、M&Aの成否を左右する最も重要なプロセスです。ただ、弁護士、公認会計士、税理士といった外部の専門家に依頼するため追加コストがかかります。そのため、調査対象を限定したり、通り一遍な調査で終わらせてしまい、後日、簿外債務や訴訟案件を抱えていることなどが発覚し、売却価格を減額されたり、契約そのものが破綻してしまうといった事例が少なからず見られます。

原因④:M&A事業者選びの失敗

 M&Aは売手側企業・買手側企業のみで交渉しても、うまくいくことはほとんど期待できず、M&Aアドバイザー等の事業者に仲介や交渉といったことを依頼することになります。各々の企業の事情を理解し、寄り添いながらM&Aを進めてもらえる事業者に巡り合えば成功する確率を相当高めることができます。逆に、手数料や成功報酬目当ての悪徳業者に巡り合ってしまうと、成功率は程遠いものになってしまいます。事前相談をしっかり行い、パートナーとなり得るか見極めることが大切です。

原因⑤:情緒や感情に流されてしまう

 これは相手の言うことを鵜呑みにしたり、依頼されたことを断れずつい引き受けてしまった結果、失敗してしまうことですが、M&Aについても当てはまります。取引先の銀行や証券会社からの紹介案件だから大丈夫だとか、取引先企業から泣き付かれ救済も兼ねてM&Aを行った結果失敗してしまう、といったことです。冷静になって客観的な判断を行うといった心構えが必要です。

 近年、M&Aが盛んなわりに成功する確率が低い原因は、このような理由によるものです。逆にこうした原因を解決していけば、M&Aの成功率はかなり改善されるのではないでしょうか。