以前は、中小企業や個人事業などの経営者はその事業承継に、子や孫などが引き継きぐ「親族内承継」を行ってきました。しかし、最近の少子化や子供達の価値観・人生観といったものの違いから、これも難しくなってきました。そこで「M&Aによる第三者への承継」を選択する経営者も増えてきています。
 中小企業経営者などが事業承継や経営戦略のためにM&Aを行う場合に採用する主なスキーム(手法)としては、「株式譲渡」と「事業譲渡」がありす。このうち、「株式譲渡」は手続きが簡単であるため多く利用されています。今回は、中小企業や個人事業のM&Aスキームの中で最も利用されている「株式譲渡」について、その基本的なプロセスについて解説します。

M&Aの一般的なプロセスの流れ

「株式譲渡」の場合の一般的なプロセスの流れを以下に見ていきましょう。

M&Aを行う決定と社内プロジェクトの立ち上げ

 まず、経営戦略のために行う、あるいは事業承継のために行うといった明確な目的を設定することが重要です。
 そして、社内の主要部門の従業員でプロジェクトチームを結成します。この際一般的には財務・税務、法務など、専門部署の担当者の中から選定し、経営者とごく少数のスタッフにより情報を共有します。M&Aを行うには、社内従業員や社外取引先などに M&A情報がリークしないよう秘密裏に行う必要があるからです。

M&Aアドバイザーとの相談と契約

 中小企業などの経営者が、M&Aによる経営戦や事業承継を行う場合、専門家である外部のM&Aアドバイザーなどの仲介会社に依頼します。この場合、売手側・買手側別々につく「アドバイザリー型」と、双方の間に入って交渉する「仲介型」の委託形式があります。また、ひとつの事業者のみと契約する「専任型」、同時に複数の事業者と契約する「非専任型」がありますが、いずれにせよ自社に寄り添い、協力してくれる事業者を選ぶことが重要です。

M&Aスキーム選びとバリュエーション

 M&Aアドバイザー等が決まったら、アドバイザーとともに利用するスキームを決定します。中小企業や小規模事業などのM&Aでは、「株式譲渡」、「事業譲渡」による場合がほとんどですので、自社の戦略に合ったほうを選びます。
 会社を売却して経営者が直接多額の売却代金を手に入れるのであれば「株式譲渡」を、また、ある事業を切り離して事業の選択と集中をするのであれば、「事業譲渡」を選択します。
 具体的なスキームが決まると同時に、バリュエーション(企業価値評価)を実施します。バリュエーションをもとに買手側企業が希望買収価格を決めます。
 便宜上、M&Aスキームと同時期にしましたが、このバリュエーションは、他のプロセスでも必要に応じて行われます。

ノンネームシートやIM(インフォメーション・メモランダム)作成

 ノンネームシートとは、売手側企業の事業概要などを記した匿名の A4サイズ1枚ほどの書面です。これを開示してM&Aアドバイザーなどが買手候補を探します。
 そして買手候補を絞り込んだら、より詳しい売手側企業情報を作成し開示します。これがIMという書類です。それと同時にネームクリアといって、買手側企業名を公表します。このプロセスで数十社の買手候補が数社にまで絞られます。

トップ面談・交渉、意向表明・基本合意契約

 買手側候補が数社にまで絞り込まれると、次に売手側・買手側企業のトップによる面談と交渉です。互いの人物像、経営に対する考え、経営手法などを確認したのち、最終的に一社に絞り込みます。
 この時、買手側企業から提出されるものが、買手側のM&Aに対する本格的な意思を示す「意向表明」です。そのあと、双方トップにより、売却予定価格や条件などを取り決め、「基本合意契約」の締結となります。

デューデリジェンス(DD)の実施

 デューデリジェンスとは、「ノンネームシート・IM」などで開示された情報をもとに、買手側企業が売手側企業に、財務・税務、法務、人事など、重要な情報の提出を求め、買手側企業でさらに詳細な調査を行うことです。買手側企業が今まで開示を受けた情報が真実であるかどうか、外部の弁護士・公認会計士・税理士などの士業に依頼します。問題がなければ、「最終譲渡契約」に進みます。

最終譲渡契約とクロージング(決済)とPMI(事業統合)

 一連のプロセスを経て、売買価格条件が決まるといよいよ最終譲渡契約の締結です。通常、M&Aでは契約と売買対象物件の引き渡しや代金の支払いといったクロージングまである程度のタイムラグが生じます。そのため、その間に行うべき必要事項も、「最終譲渡契約」の中に含めておきます。これでM&Aは一応成約し終了します。
 しかし、M&Aは手段であって目的ではありません。ここから先の事業統合(PMI)こそが、本来のM&Aの始まりであることを忘れてはなりません。

 中小企業などのM&Aスキームで、最も利用されている「株式譲渡」をベースに、 M&Aの基本的な流れについて述べてみました。