M&Aでの売却価格は、売手側企業の希望売却価格と、買手側企業の提示する希望買収価格を双方が交渉しながら決めていくものです。
 売手側企業では、今までの実績と財務諸表などのデータをもとに、希望売却価格を決定します。一方、買手側企業ではM&A後の観点から事業計画を立て、それをもとにして希望買収価格を決めるといったプロセスをとります。
 このように、買手側企業では、M&Aが実現した場合の相乗効果(シナジー効果)がどれくらいか予想しながら買収価格を決めるわけですから、何らかの明確な基準を設定しておく必要があります。それが「のれん」といった「超過収益力」です。
 この「のれん」は、「暖簾」からきたものです。「暖簾」とは店の顔であり、信用力を表すものです。 M&Aでの「のれん」も、会社や事業の信用力を意味する概念です。
 買手側企業は、売手側企業から開示された貸借対照表などの財務データをもとに、この「のれん」を上乗せしたものを希望買収価格として提示し、双方が交渉、合意するといった形をとります。

M&Aにおけるのれんとは?

 前述したように「のれん」とは、M&Aにおける買収対象である売手側企業の「超過収益力」ですが、もう少し詳しく見ていきます。

「のれん」とは

「のれん」とは、本来は会社や事業といったものの対外的な信用のことでした。これがその後、M&Aでも広く用いられるようになってきた評価手法です。M&Aでは、買手側企業が、売手側企業の財務諸表の一つである貸借対照表の資産などを時価で再評価し、当該会社の純資産を把握します。この純資産に「超過収益力」としての「のれん」の価格を上乗せしたものを、売手側企業の企業価値、すなわち買収価格として提示します。
 この「のれん」といったものは、売手側企業が持っている、他の会社などにはない独自の技術・技能・ノウハウ、取引先、優良顧客、ブランド、ネットワーク、知的資産、あるいは企業文化といった、主に無形の資産を指します。
 一般的な貸借対照表上に表示される資産とは、現金・預金、売上債権、有価証券、貸付金といった具体的な金額で把握できる流動資産、あるいは土地・建物、機械設備、車両・運搬具などの有形で、金額表示されるような固定資産などをいいます。
 こういった財務情報に対して、「のれん」のような資産は、貸借対照表上、具体的な名称(勘定科目という)と金額で表示されないもので、非財務情報などといわれるものです。
 買手側企業は、このようなさまざまな「のれん」である無形資産のうち、M&Aにより自社の経営に役立つものを選び評価するものです。その結果、「超過収益力」として、具体的な金額で提示し、交渉、合意するといった形をとるのです。わかりやすく図に示すと、下のようになります。

貸借対照表(1) 貸借対照表(2)
A 資産 A 資産
〈流動資産〉
・現金・預金 B 負債 B 負債
・売上債権
 など 
C 純資産 ↑本来の価値↓ C 純資産 ↑M&Aでの買収価値↓
〈固定資産〉
・土地
・建物
など
のれん↓ 超過収益力↓
技術
・ノウハウ
など

 上図の貸借対照表(1)で、A(資産)−B(負債)=C(純資産)として、本来の財務上の企業価値を算出しておきます。これをベースに、買手側企業はM&A後、自社の経営上のシナジー(相乗)効果が期待できる技術やノウハウなどを金銭的に評価し「のれん」として、C(純資産)に上乗せしたものを、売手側企業価値(買収価格)を算定するのです。

M&Aにおける「のれん」の算定方法は

 M&Aでは、売手側企業の企業価値の算定をバリュエーションなどと呼びます。このバリュエーションにより算出した金額をもとにしてデューデリジェンス(DD)といった資産調査の結果なども考慮し、買収価格が決まります。
 バリュエーションには、「時価純資産法」、「DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法」、「類似上場会社比較法」などがあります。この中でM&Aの「のれん」の基礎としての企業価値算定方法としては「DCF法」が適していると思われます。将来の予想利益、キャッシュフローなどにかなり主観的な評価が入り、また計算も複雑ですが、将来の収益などを割引現在価値といった時間価値の視点から評価するため、M&Aの趣旨に合っているといえるでしょう。

 M&Aでは「のれん」の評価で買収価格が大きく変わってしまいます。大きなシナジー効果や企業価値が期待できるのであれば、本来の企業価値よりもかなり高額な金額で売却できます。一方、買手企業にとってあまり魅力がなければ「負ののれん」といった、本来よりも低い金額で買い叩かれることもあります。
 そのためにも「のれん」の基礎となる独自の技術、ノウハウ、ブランドといった経営資源のブラッシュアップが欠かせません。