M&Aとは、売り手側企業から買い手側企業へ企業や事業を譲渡する売買契約です。また、 M&Aのプロセスは複雑で専門的知識とノウハウが要求されるものですので、売り手側企業、買い手側企業といった当事者が、業務の合間に行うには、難しいものがあります。
 そこで、これらの企業では、 M&Aアドバイザーといった事業者に依頼することになります。 M&Aアドバイザーを通して、売り手側企業では買い手側企業にアプローチし、買い手側企業もM&Aアドバイザーに依頼し売り手側企業の買収を検討します。

売り手側から買い手側へのアプローチ・買い手側による売り手側の検討

 買い手側企業では、M&AアドバイザーなどとのFA(ファイナンシャル・アドバイザー)契約を締結すると、M&Aアドバイザーへ、直近3年ほどの財務諸表その他の資料を提出します。これらをもとに、 M&Aアドバイザーは「バリュエーション(企業価値評価)」を実施し、売り手側企業の売却可能額を把握します。そのほかにも、会社案内、パンフレットなどの資料により買い手候補企業のための「企業の概要書」といった開示情報を作成します。
 M&Aアドバイザーは、希望売却価格を含む開示情報をもって、いろいろなルートから買い手候補企業を探します。M&Aアドバイザーが買い手候補となる企業、事業所、あるいは店舗といったところまでくまなく探し回ったり、提携先の金融機関、公認会計士、税理士などの士業専門家にあったてみたり、他のM&Aアドバイザーなどの事業者からも紹介してもらいながら、買い手候補企業をピックアップしていきます。
 こうして売り手側企業に関心を示した買い手候補企業を50〜100社に絞り込みます。その後、売り手側企業と相性のよさそうな企業を対象に、さらに10社程度にまで絞ります。この段階で、M&Aアドバイザーは、買い手側企業名を公表(ネームクリア)し、より詳しい内容の売り手側企業情報を開示します。この開示情報が「IM (インフォメーション・メモランダム)」と呼ばれるものです。その後、さらに買い手候補企業を2、3社程度にまで絞り込みます。
 最終的に特定の1社に決定すると、その買い手候補企業から「意向表明」といった本格的なM&Aを行う旨の意思表示がされ、「基本合意契約」の締結となります。
 このように、M&AではM&Aアドバイザーとの FA契約後、すぐに売り手側企業、買い手側企業双方が、希望する相手を見つけることができるというものではありません。一定のプロセスを経ながら双方が、それぞれ特定の相手企業を決めていくものなので、相当な時間がかかるということを認識しておく必要があります。
 M&Aアドバイザーなどを介した相手候補探しの中で重要なものが、先のも述べた「バリュエーション(企業価値評価)」と「ノンネームシート」・「IM(インフォメーション・メモランダム)」といった買い手候補への開示情報です。次に、これらについて詳しく見ていきます。

バリュエーション(企業価値評価)と希望売却価格

 バリュエーションとは、売買対象である売り手側企業の売却可能価格のベースとなる数値を計算することです。売り手側企業では、このバリュエーションによる数値に超過収益力としての「のれん」を上乗せして、具体的な希望売却価格を提示します。具体的な希望売却価格があれば、買い手側企業でも買収予算と検討してみることができますが、価格表示がないと不安になってしまい、検討してもらえなくなってしまいます。
 また、企業価値に上乗せする金額としては、5年分あまりの純利益を加算するといったものが最も簡単な方法として利用されています。

ノンネームシートとIM(インフォメーション・メモランダム)

「ノンネームシート」とは、売り手側企業が最初に開示する自社についての情報で、A4サイズの1ページ程度の企業概要書で「一枚物」とも呼ばれています。
 主な内容は、秘密厳守と明記した上で、「案件概要」として事業内容、営業拠点、従業員数、事業の特徴、売却理由、「希望条件」として採用するM&Aスキーム、希望売却価格、そして「財務状況」として直近3年分の売上高、経常利益、最後に注意事項となっています。
 このノンネームシートに関心を示した買い手側企業を50〜100社ほど記した「ロングリスト」といったものを作成し、その後、売り手側企業の条件に合う買い手側企業を選別し、10社前後の「ショートリスト」を作成していきます。
 次に「ネームクリア」といった買い手側企業名の公表と「IM(インフォメーション・メモランダム)」といった30ページほどの詳細な売り手側企業情報を開示、より関心を示した数社について、次のプロセスであるトップ面談・交渉へとプロセスを進めます。

 中小企業等が行うM&Aで最も重要なことは、自社の M&Aの目的に合った相手企業を探すことです。確かに、少しでも高く買ってもらえそうな企業、あるいは安く買収できそうな企業探しも大切ですが、それ以上に双方のM&Aの目的と相性のよい企業とのマッチングを第一に心がけるべきでしょう。