M&Aは、「合併・買収」とも呼びます。合併では、被合併会社が合併会社と統合することで消滅し、ひとつの会社になります。これに対して買収では、買収会社と被買収会社とが、支配・従属関係を維持しながら併存します。
 このM&A スキーム(手法)のうち合併は、会社法上の「合併(吸収合併・新設合併)」を指します。一方買収は、会社法上の「会社分割(吸収分割・新設分割)」、「株式交換・株式移転」、そして取引行為としての「株式譲渡」、「事業譲渡」、「新株引受」などです。
 近年、我が国のM&Aは、大手の会社から中小企業・小規模事業者へと広がっていますが、こうした会社の多くがM&Aに際し、「株式譲渡」や「事業譲渡」といったスキームを利用しています。そこで今回は、これらのスキームを中心に買収のメリットやデメリットについて解説していきます。

会社買収のメリットとデメリット

 現在我が国のM&Aの中心は、中小企業などに移っていますが、これらの企業のほとんどが利用するスキームが「株式譲渡」です。次いで「事業譲渡」が利用されています。では、これらのスキームを中心に、買収によるM&Aのメリット・デメリットについて見ていきましょう。

「株式譲渡」の場合のメリット

①会社や従業員の雇用が維持できる

「株式譲渡」は、売り手側企業のオーナー経営者などが保有する株式を買手側企業に売却譲渡するものです。これによりオーナー経営者などは、直接多額の売却代金を手に入れることができます。一方で、買手側企業は売手側企業の支配権(経営権)を獲得します。その際、売手側企業の資産・負債、その他すべてを包括的に引き継ぐため、売手側企業はそのまま存続することができ、その従業員の雇用も守られることになります。

②オーナー経営者などの株主に直接大金が入る

「株式譲渡」では、売手側企業経営者などの株主が保有する株式を、買手側企業に売却譲渡するわけですから、取引の主体は株主です。そのため株主に直接売却代金として大金が入ってくることになります。

③面倒な手続きが不要

 会社法上規定の多い「合併」、「会社分割」、「株式交換・株式移転」などのスキームに比べ、株主総会が不要、債権者保護手続も不要といった、かなり簡単な手続きで実行できます。また、「事業譲渡」のように譲渡対象事業のすべての契約の見直し、当該事業に必要な行政許認可の再取得といった煩わしい手続きも必要ありません。

「事業譲渡」の場合のメリット

①買手側企業に必要な資産が手に入る

「事業譲渡」では、譲渡対象事業の個々の資産、負債、行政許認可等についてみなおし、事業上必要な資産、従業員、契約、行政許認可などだけを個別に再契約や再申請・取得するため、事業上不要なものを引き継ぐことはありません。

②簿外債務、その他のリスクを引き継ぐことがない

 対象となる事業に関する契約や、権利義務関係を見直しチェックしますから、簿外債務、偶発債務、訴訟リスクなどを引き継がなくてすみます。
 そのほかにも、「会社分割」や「株式交換・株式移転」などの会社法上のスキームでは、対価に現金を必要とせず行えるため、手持ちのキャッシュフローが不足していてもM&Aを行うことができるというメリットもあります。

「株式譲渡」の場合のデメリット

①簿外債務などのリスク

「株式譲渡」の場合、包括継承のため、売却会社すべての資産・負債を引き継ぐことになります。そのため、財務諸表になかった簿外債務、偶発債務、追徴課税、訴訟といったリスクも引き継がなくてはなりません。

「事業譲渡」の場合のデメリット

①売却代金がオーナー経営者などの株主に直接支払われない

「事業譲渡」では、主体が売手側企業と買手側企業であるため、「事業譲渡」の対価は、売手側企業に直接支払われ、オーナー経営者などの株主には支払われません。この場合、退職慰労金、経営者から会社への貸付金の回収といった形での支払いとなり二度手間になってしまいます。

②手続きが煩雑

「事業譲渡」では、譲渡対象となる事業に関する契約は、従業員との雇用契約を含め見直す必要があります。また、行政許認可も再取得しなければなりません。
 そのほか、デメリットとしては、「会社分割」、「株式交換・移転」などは会社法上の組織再編であるため、一定の法定手続きを経ないと、再編の効力が発生しないといったことがあります。

 買収によるM&Aの場合、複数のスキームがありますので、あるスキームではデメリットになることでも、別のスキームではメリットになることもあります。そのため、買収では複数のスキームを組み合わせることで、自社のM&A戦略上最適なスキームを構築することも可能です。