大手企業だけでなく、中堅・中小企業でも、近年盛んに行われるようになった「M&A」。その経営規模に応じて、また、経営目的に応じてさまざまなM&A手法(スキーム)が採用されています。
このようなM&A手法(スキーム)について、中堅・中小企業の場合を中心に見ていくことにします。

M&Aの手法(スキーム)の種類と内容

一般的なM&Aの手法(スキーム)の種類を一覧委すると以下のようになります。

  M&A(広義)

 M&A(狭義)

提携(アライアンス)

合併(吸収合併・新設合併)

業務提携

会社分割(吸収分割・新設分割)

資本提携

株式交換・株式移転・株式譲渡

合弁( JV)

事業譲渡

 

新株発行(引き受け)

 

 ここで留意すべき点は、M&A(狭義)では、支配権獲得が前提であるのに対して、提携(アライアンス)では、支配権は対象としないということです。
また、M&A(狭義)では、買収の対価が原則、買い手側企業の株式の交付と、現金の支払いと分かれます。前者は、合併・会社分割、株式分割・株式移転で、後者は、株式譲渡、事業譲渡、新株発行です。

主なM&A手法(スキーム)の内容

近年におけるM&Aの多くが、中堅・中小企業によるものですので、ここでは、これらの企業がM&Aの際に採用する手法(スキーム)について述べてみたいと思います。
中堅・中小企業のM&A手法(スキーム)は、株式譲渡をメインに、事業譲渡や会社分割、新株発行などを補足的に採用しています。

株式譲渡

中堅・中小企業では、創業経営者が、通常筆頭株主であるため、M&Aによる会社の譲渡は株式譲渡という形をとることがほとんどです。
株式譲渡では、株主総会、取締役会による承認や、株主、債権者保護などの手続きが必要ないため、簡単な手続きで譲渡が可能です。
また、M&Aの対価が現金ですから、売却する経営者には多額の売却代金(キャピタルゲイン)が入ります。
経営者の個人保証がはずれたり、行政許認可や各種契約も原則引き継ぐことができます。
ただ、M&A後に簿外債務を引き継ぐことになったり、「チェンジオブコントロール条項」といったM&Aの際に契約相手との間で、そのまま契約を引き継ぐことができないといった取り決めがある場合、注意が必要です。
また、持株比率と少数株主権との関係にも注意が必要です。特に3%以上の株式を保有する株主には要注意です。さまざまな面で権利を行使し、 M&A後の事業に干渉するおそれがあります。そのため、M&A前に売り手側企業の経営者に100%株式を集約させておくとよいでしょう。

事業譲渡

事業譲渡は、売り手側企業の主体が経営者ではなく、売り手側企業そのものとなることです。そのため売却代金は売り手側企業に入るため、経営者が直接大金を手に入れることはできません。その後、退職金や会社への貸付金の返済名目で受け取ることになります。
株主総会や債権者からの個別の同意を要するなど、手続きが面倒になります。ただし、簿外債務のリスクはなくなります。そのため、デューデリジェンス(DD)の負担も軽くなります。
また、株式譲渡と違い、一部の事業のみ移転することも可能なため、事業承継だけでなく、経営戦略、事業戦略の一環としても有効です。

会社分割

会社分割は、会社がその事業の全部、一部をほかの会社に引き継がせることです。既存の会社に引き継がせる場合を吸収分割、新たに設立した会社に引き継がせるものを新設分割といいます。
複雑な手続きを経ることなく、早くM&Aを行えるため利用されている方法です。ただ、会社法の規律を受けるため、専門家に依頼したほうがいいでしょう。

新株発行(引き受け)

新株発行は、既存の株式を対象とした株主割当と、外部の第三者への第三者割当があります。買い手側企業が過半数の株式を取得することで支配権を得られますが、株式譲渡にように100%取得はできません。事業承継よりは、事業資金獲得のための経営戦略の一環として有効な手法(スキーム)です。

その他のM&A手法(スキーム)

その他のM&A手法(スキーム)には、合併があります。一般的には大企業が行う場合がほとんどで、中堅・中小企業にはほとんど利用されていません。
提携なども大企業が一定の事業目的のため、一時的に協力する事業形態で、中堅・中小企業のM&Aにとってはあまり意味がないように思われます。

以上簡単ですが、M&Aの手法(スキーム)についてまとめました。