M&Aでは、M&Aアドバイザーとの FA (ファイナンシャル・アドバイザー)契約→案件探し→トップ面談・交渉→意向表明・基本合意→デューデリジェンス(DD)というプロセスで進んでいきます。デューデリジェンスの結果、特に問題点がなければ、「最終譲渡契約」の締結となります。
「最終譲渡契約」によりM&Aは一応成約となります。ただ、多くの場合成約と同時にクロージング(決済)が行われることはほとんどありません。一般的には1カ月〜2カ月程度の時間のズレが生じます。
 では、「最終譲渡契約」の締結からクロージングまでの流れについて解説していくことにします。
 

「最終譲渡契約書」の締結から「クロージング」まで

 M&Aのプロセスの中で特にデューデリジェンスは重要ですが、デューデリジェンスによる調査だけでは売手側企業に関するすべての事実関係や権利義務関係などは調べきることはできません。最終譲渡契約後も、かなり多くの調査や手続きが残っています。これらの調査や手続きを終了させ、株式などを移転し対価としての代金の支払いをもって、ようやくM&Aは完了となります。

最終譲渡契約の締結

 最終譲渡契約からクロージングまで一定の期間を要しますから、最終譲渡契約条項の中に、この間に実施すべき事項を事前に記載しておく必要があります。このような契約条項は、M&Aアドバイザーなどが作成したあと、弁護士に依頼してチェックをしてもらい、最終的にトップによる確認といった流れになります。
 また、最終譲渡契約の記載内容は、以下のようなものです。

売買対象物の特定および売買についての合意事項

 M&Aスキーム(手法)のほとんどが、「株式譲渡」と「事業譲渡」ですから、売買対象物も株式あるいは事業となります。また、その売買価格は、クロージング時における評価額とするといったことも決めておきます。
 その他、売買代金の支払方法も決めておきます。売手側企業の多くが、一括支払いを希望します。一方で、買手側企業では、クロージング後もいろいろな問題がありそうな売手側企業に対しては、分割支払いを希望します。そこで、両者の間をとった調整が行われることになります。

表明・保証

 表明・保証とは、売手側企業から買手側企業に対して、今まで開示した情報、デューデリジェンスで調査した事実関係、権利義務関係も含め、売手側企業のすべての事項について真実であることを表明するものです。仮に開示情報その他の事実関係が真実でなかった場合、損害賠償や売買代金の減額あるいは契約解除に応じるといったことを保証するものです。 
 デューデリジェンスだけでは売手側企業の経営状況、その他すべてを知り得ない買手側企業の情報格差を担保するもので、最終譲渡契約書の中で最も重要な契約条項となっています。

「クロージング」前提条件

 クロージング前提条件とは、ある一定事項が終了していることを前提として、クロージングに応じるというもので、買手側企業から売手側企業への義務履行を促すものです。一般的な前提条件としては、次のようなものがあります。

①会社名義で購入した資産のうち、経営者が個人的に使用しているものを(会社の業務とは関係のない高級外車など)、経営者自身が買い取る手続き
②M&A後、買手側企業にとって不要な業務委託契約、賃貸契約その他の契約の解除手続き
③売買対象会社の資産で、抵当権等の担保権が設定されているものの抹消手続き
④売買対象会社の役員やM&A後、買手側企業にとって重要になる売買対象会社の従業員(キーパーソン)に対するM&Aへの同意、承認を得る手続き

 こうした一連の手続きの履行を前提として、買手側企業がクロージングに応じるというものです。

「クロージング」前後における誓約事項

 買手側企業から売手側企業に対して、クロージング手続きがスムーズに実施されるように、また、クロージング後の事業統合がスムーズに行われるように、一定の禁止事項や制限事項を設定するものです。
 クロージング前であれば、業務以外の事務を制限し、クロージング後であれば、買手側企業へスムーズに会社や事業が引き継げるようにする協力義務や競業避止義務などがあります。

「クロージング」

 クロージングとは、売手側企業から売買対象物である株式や事業の引き渡しと、買手側企業からの売買代金の支払いというM&Aの最後の手続きのことです。これによりM&Aは一応完了します。
「株式譲渡」によるクロージングでは、株券発行の有無の確認と、株主名簿への名義書き換えについては細心の注意が必要です。また、「事業譲渡」の場合、対象事業に関するすべての契約についての見直し、許認可の再申請といった手続きが必要なため、相当な時間と労力が必要である点、留意しておくことです。

「最終譲渡契約」から「クロージング」までに実施する手続きは相当ありますから、確実にクロージングし M&Aを終了させるには、事前に実施すべき事項を「最終譲渡契約書」の中に明記しておくことが重要です。