最近、またM&Aという言葉を見たり聞いたりする機会が増えてきたように思います。M&Aというと、一昔前までは大企業を中心に限られた業種を対象に行われていました。ところが近頃では、上場しているような大規模企業から、中小、あるいは個人レベルの事業所までもM&Aを行うようになっています。むしろ、M&Aを行う企業の中心が、中小企業などに移ってきているかもしれません。
 ただ、M&Aという言葉が一人歩きしているようにも感じられます。M&Aとは本来、ある経営上の目的を実現するための手段であるはずです。しかし、本来の目的を明確に意識しないでM&Aのプロセスだけを進めてM&Aが完了してしまうと、経営上何をやってよいのかわからなくなってしまうことがあるのです。「手段の目的化」といった現象です。M&Aも気をつけないと、その行為を実行することが目的にすり替わってしまいます。結果として、M&Aそのものが失敗に終わってしまいかねないのです。
 そこで今回は原点に戻り、M&Aとは、そしてその目的、すなわち、なぜM&Aを行うのかといった点を焦点に当てて見ていきます。

M&Aを行う目的

 M&Aは正式には「Merger and Acquisition」と表記されるもので、日本語では「合併・買収」と呼ばれています。その役割は、先にも述べたように、経営上の目的を実現するための有効な手段です。
 企業は日々経営を行っていく中で、さまざまな経営課題に直面し、解決していきます。それとともに、3年あるいは5年先といった中期・長期的視点に立って、自社のあるべき姿を描き実現へと導いていきます。その際、有効な手段としてM&Aという選択肢も入ってくるわけです。なぜM&Aを行うかといった目的には次のようなものが考えられます。

⚫︎事業承継のための一つの方法として
⚫︎経営戦略上の目的のため
⚫︎企業再生・事業再生といった、企業を立て直す目的のため

 このうち従来からの経営戦略、そして近年急速に増えてきた事業承継のためのM&Aについて述べていきましょう。

なぜM&Aを行うのか-事業承継のため

 近年の急速な少子高齢化の波は、中小企業や小規模事業者にも押し寄せています。中小企業では同族会社といった家族経営が多いものですが、少子化から跡を継ぐ子供や孫といった、直系の親族が少なくなっています。そのため、経営者も引退できずに70〜80歳を過ぎても現場に立たざるを得ない高齢経営者も多くいます。
 こうした問題の解決策としてM&Aが注目されているのです。M&Aを利用してこうした跡の継ぎ手のない企業を買い取ってもらえば、企業は存続でき、従業員の雇用も維持されます。また、経営者も売却代金が入ることで、老後の生活不安も解消されることになります。

なぜM&Aを行うのか-経営戦略のため

 企業には「社訓」とか「経営理念」といったものがあります。例えば、「お客様第一主義」や「地域で一番の店になる」といったものです。そのためには、いつまでに、何を行っていくのか、具体的に計画を立てていく必要があります。これが経営戦略です。「地域で一番の店」を目的に設定するならば、1年後には地域に同業店を3店、3年後には買収などで5店に広げエリアでの占有率を50%にする、といった具体的な数字を掲げた計画を立案します。そしてその目的を実現するための方法・手段としてM&Aを行うというのが、経営戦略のためのM&Aです。
 M&Aを利用することで企業は、比較的短い期間で経営目的を達成することができるのです。

なぜM&Aを行うのか-企業再生のため

 企業再生・事業再生といったものは、倒産の危機にある企業などをM&Aを利用して救済し、再生させるものです。採算の見込める事業や経営資源を分割し、別会社を設立します。そしてこの新会社をM&Aを利用して売却し、その代金を債務の返済の充てるといったものです。

 M&Aは手段であり、目的ではありません。M&Aのプロセスを進めていく中で、いつも「なぜM&Aを行うのか」を意識しながら行動することが必要です。そして、M&A後の企業のあるべき姿を想定して、今何を行うべきかを考えることが大切です。