M&Aの中でも特に重要なプロセスである「デューデリジェンスとは、正式には「Due=当然の」と「diligence=義務」を合わせたものです。デューデリジェンスでは、買手側企業は必要に応じて追加資料の提出を売手側企業に求めます。一方、売手側企業はその要求に「当然応じなければならない義務」を負います。これがその語源です。
 M&Aでは、「基本合意」の締結から本格的な「最終譲渡契約」をするまでの間に、買手側企業が「ノンネームシート」や「IM (インフォメーション・メモランダム)」といった売手側企業からの開示情報の正確性を、公認会計士、税理士、弁護士といった外部の専門家に依頼して詳しい調査・分析を実施します。これがデューデリジェンスです。ここで問題がなければ終局プロセスである「最終譲渡」から「クロージング(決済)」へと進んでいきます。
 では、デューデリジェンスの内容や実施する上でのポイントなどを見ていきましょう。

デューデリジェンスの内容と実施する上でのポイント

 デューデリジェンスとは、買手側企業が「最終譲渡契約」の締結に先立って、今まで売手側企業から開示された情報を調査・分析するものですが、その範囲はかなり広いものです。主なものは、「ビジネス(事業)デューデリジェンス」、「財務・税務デューデリジェンス」、「法務デューデリジェンス」があります。そのほかにも「人事デューデリジェンス」、「ITデューデリジェンス」、「不動産デューデリジェンス」、「知的財産デューデリジェンス」、「環境デューデリジェンス」などがあります。
 デューデリジェンスは、弁護士、公認会計士、税理士といった外部の専門家に依頼するため、高額なコストが発生します。また、M&Aは時間との勝負といった面があります。いつまでも時間をかけていては、高く売れるものも売れなくなってしまいます。
 そのため、デューデリジェンスに際しては、調査対象を絞る「選択と集中」が必要になってきます。必ず実施すべきデューデリジェンスとしては、先にあげた「ビジネスデューデリジェンス」、「財務・税務デューデリジェンス」、そして「法務デューデリジェンス」です。これらをベースに状況に応じてほかのデューデリジェンスを追加するといったスタンスで進めていきます。
 また、これらのデューデリジェンスでも、さらに自社に必要な内容に絞って実施するといった対応も必要です。
 それではメインとなる3つのデューデリジェンスについて見ていくことにします。

「ビジネス(事業)デューデリジェンス」

「ビジネスデューデリジェンス」は、デューデリジェンスの中でも特に重要なものです。主な調査対象は、事業計画と売買価格です。
 売手側企業では、M&AアドバイザーとFA (ファイナンシャル・アドバイザー)契約を結ぶと、まず、バリュエーション(企業価値評価)と事業計画を作成し、希望売却価格を算出します。これを買手側企業で精査するのです。
 売手側企業の作成した事業計画と、それに基づく希望価格にズレはないか、楽観的な部分はないかなどのチェックをします。一方、買手側企業でも、独自の事業計画を策定し、それをもとに希望買収価格を算出します。その後、両者を照らし合わせ、合理的な希望売却価格、希望買収価格になるか判断します。
「ビジネスデューデリジェンス」の特徴としては、ほかのデューデリジェンスが外部の専門家に依頼するのに対して、M&Aアドバイザーや自社の営業スッタフ、そして経営者自身が主体となっているところです。これは自社のビジネスに関して熟知しているのは、経営者や自社の営業スッタフだからです。
 その他の特徴としては、企業価値や事業計画といったものを、M&A後のシナジー(相乗)効果といった視点から見ていることです。M&Aにより複数の会社がひとつになれば、単独の時よりもより多くの売上げ、利益が期待できます。この期待値を希望売買価格に上乗せするという考え方です。

「財務・税務デューデリジェンス」

「財務デューデリジェンス」は、主に売手側企業の作成した財務諸表(貸借対照表や損益計算書など)が適正なものかどうか、また売手側企業のバリュエーションの基礎となるデータの信ぴょう性をチェックするもので、公認会計士が実施します。
「税務デューデリジェンス」については、売手側企業の過去の確定申告に対する追徴課税の有無などをチェックするもので、税理士に依頼して実施します。

「法務デューデリジェンス」

 売手側企業が締結している契約、特に財務諸表に表れない簿外債務、未払い残業代その他の債務不履行とそれによる訴訟のリスクなどについてチェックするもので、弁護士に依頼します。

 デューデリジェンスは M&Aの成否を左右する重要なプロセスで、外部の専門家に依頼することになりますが、丸投げすることなく買手側企業も何らかの形で関与し、主体的に進めていくことが重要です。