M&Aアドバイザーを通じて買手側企業が2〜3社程度にまで絞り込まれると、売手側・買手候補企業トップによる面談・交渉のプロセスへと進んでいきます。
 M&A交渉というと、売手側・買手側企業による丁々発止の駆け引きを連想しますが、最近のM&Aでは、そのような交渉が行われることはほとんど見られません。双方企業のトップによる信頼関係を築くことが最も重要になります。そのため、双方企業がメリットを享受できる「友好的M&A」を目指します。
 では、売手側・買手側企業のトップによる面談・交渉について詳しく見ていきましょう。
 

トップ面談の実施と条件交渉について

 最近の中小企業などのM&Aでは、売手側・買手側双方トップによる信頼関係の構築が重要視されます。
 これが外国企業を含む大手企業などのM&Aでは、当初から双方が自社の立場を主張し、激しい交渉に入ることも少なくありません。その結果、売手側・買手側いずれかが不利な関係となるM&Aも多く見られます。「敵対的買収」、「買い叩き」、「ハゲタカファンド」といった外資系ファンドによるM&Aなどがその代表です。
 一方、中小企業などのM&Aでは、最初からいきなり双方の希望売却価格や売却条件、あるいは希望買収価格、買収条件といったものを出すことはありません。和やかな雰囲気の中で、双方トップの経営理念や経営手法などから始まり、それぞれの人物像といったものの理解へと入っていきます。その後の具体的な交渉の場合でも、相手側の立場に立って自社の要望を述べ、適当な落とし所を探りながら、双方が良好な関係になるよう交渉を進めていきます。

双方企業のトップ面談を進める上でのポイント

 トップ面談・交渉に先立ち、M&Aアドバイザーは「バリュエーション(企業価値評価 )」や「ノンネームシート」、「IM (インフォメーション・メモランダム )」の作成・提示と買手側企業探しを行いますが、トップ面談・交渉では、M&Aアドバイザーは仲介役といった脇役であり、主役は売手側・買手側双方トップに移ります。
 トップ面談では信頼関係の構築が大切ですから、最初の面談では、お互い相手に好印象を与えられるようにしなければなりません。
 買手側企業では、開示情報により売手側企業についてある程度の情報を得ていますが、売手側企業では、買手側企業について何も知りません。買手側企業が自社の案内書といったパンフレットなどを持参して紹介することで、買手側企業への理解と双方トップの信頼関係を共有することができます。
 また、売手側企業でも、買手側企業が開示情報だけではわからない事項については積極的に対応し、その場で解答できないことは、後日調べてしっかり返答するといった相手への気遣いが大切です。一方、初対面からいきなり高額な希望売却価格や安価な希望買収価格といったものを全面に出してしまうと、相手の心象を悪くしまうことになり、最悪その場で、面談がブレイクしてしまいます。
 売買価格などは、M&Aアドバイザーを通し、相手に打診するほうがいいでしょう。
 また、事前にM&Aアドバイザーと議案について協議し擦り合わせを行っておくと、その後の面談がスムーズにいきます。最初のときと同様、面談を重ねていく際にも相手への気遣いが大切です。慣れていくと相手への態度がぞんざいになったり、横柄になりがちですので十分注意することが必要です。
 トップ面談の結果、信頼関係が醸成されると売手側トップは、「この会社なら売ってもいい」と考えるようになり、また、買手候補側企業のトップも「この会社なら買いたい」と思うようになります。そして次の交渉で特定の企業に絞られ、その後「基本合意契約」へとプロセスを進めることができます。

双方企業のトップ交渉を進める上でのポイント

 トップ面談により、双方トップの間に信頼関係が構築されると、本格的なトップ交渉に進みます。トップ交渉では、双方トップが本音の所で交渉しますから、互いの利害が対立することも少なくありません。売手側トップは少しでも高く売りたいと考え、買手側企業トップはできるだけ安く買いたいと考えます。だからといっていきなり法外な希望売却価格や希望買収価格を提示しては、その場で交渉がブレイクしてしまいます。バリュエーション (企業価値評価)による合理的な売買価格を提示し、相手への理解が必要です。
 トップ交渉で争点となるのは、売買価格だけではありません。それ以上に重要なものが売買対象の売手側企業とその従業員への対応です。長年手塩にかけて育ててきた会社や事業、そして従業員を引き継いでもらえるかどうかが極めて重要な交渉のポイントです。
 こういった争点を総合的に交渉し、双方が納得した落とし所を探ることが重要です。

 M&Aのプロセスで忘れてならないことは、M&Aアドバイザーはあくまでもサポート役であるということです。主役は売手側企業であり、買手側企業であることを肝に命じておく必要があります。